kasa梅雨になると傘の出番だ。現代では傘といえばまずは雨傘を指す。
アンブレラである。

傘は4000年前にはエジプト、ペルシャ、インドなどで使われていた。
しかし雨傘ではなく、日傘であった。
つまり、パラソルの方が起源は古い。

さらにいえば、富と権力の象徴が傘であった。あるいは魔除けであった。

開閉式の傘が開発されたのは、13世紀のイタリアである。
まだ日傘としての用途であった。

これがフランスに伝えられる。
17世紀のフランスでは、町中で2階から投げ捨てられる汚物(糞尿)を避けるために女性には傘が必需品だった。

イギリスでは18世紀になって、開閉式の傘が伝えられた。

誰だったか、イギリス紳士の青年が雨の日に傘をさして、新聞沙汰になるほど嘲笑された。
しかし雨傘は、やがて雨の日には濡れるのが常識だったイギリスで普及し、現在の傘として世界中に広まっていった。
傘といえば、英国紳士というイメージは、それほど古くはないのである。

英国紳士の代名詞であるイギリスのフォックスは、世界中の紳士の憧れである。

イタリアの傘といえばマリアフランチェスコ、そしてドイツの折りたたみ傘のクニルプス。

ドイツ語でクニルプスといえば、折りたたみ傘のことを指す。
商品名が一般名詞になっている。

kasa2日本では、欧米で雨傘が普及する以前から和傘が雨傘として使われていた。
和傘には番傘や蛇の目傘や端折傘(つまおれがさ)などの種類がある。
紙、あるいは布に柿渋、桐油などを塗布して、防水性を高める。

洋傘の骨が8本、多くて16本であるのに対して、和傘は数十本の骨が使われる。

理由は単純で、モンスーン気候で梅雨や夏の雷雨や秋の台風などによっていっきに大量の雨が降る日本では、雨具は必須だからだ。暴風雨のような雨に耐えるためには、骨組みのしっかりした雨傘が要る。

日本では全国的には、蓑と笠が一般的であった。
レインコートである。
長距離を移動するには、蓑と笠だった。

和傘は、江戸や京都などの街なかを移動する際に、使われた。

これも理由は単純で、近距離を移動するのに、わざわざ蓑と笠を身にまとわなくても、和傘で雨のなかを移動できる。

和傘の発生は、どこに起源があるのかはっきりしない。

京都だとか、江戸だとか、いや大阪だとか、いずれにしても昔の都市部で発生したようだ。

僕も英国紳士に憧れてフォックスの傘を使ったが、数年で壊れてしまった。

理由は、雨の質の違いだと知った。

欧米の雨は粒が小さく、霧雨に近い。重量を支える必要は無く、布地の木目も荒くて充分だ。

日本のようなモンスーン気候地の降雨は、雨粒が大きく、加速度も早く、重力が激しい。
すると、繊細すぎる欧米の傘では耐久できない。

そこで今上天皇陛下が、昭和天皇陛下の大喪の礼でさしていた頑丈そうな傘が気になった。

前原光栄の16本骨の傘だった。
日本の気候を考慮した洋傘である。

フォックスをあきらめて、マリアフランチェスコも使えないと悟って、僕は前原光栄の傘を使うことにした。それでもカバンに入れておく折りたたみ傘は、クニルプスと決めている。

日本橋三越のイタリアフェアに美しい傘が出品されたいた。
トリノ地方で手作りされている、イル・マルケザートの傘だ。
16本骨の雨傘で、造型の美しさに惚れた。

日本の雨には耐えられない傾向があるが、頑丈さ一辺倒の傘では趣がない。

kasa3雨の日にスーツを着て、ネクタイを締めて、イル・マルケザートの傘で出かける。
それもまた雨の日を憂鬱にしてしまわないライフスタイルだと思っている。

欧米、とくに欧州では、傘は高貴の象徴であったために、高価が常識であった。

日本に来た欧米人が日本の安価なビニール傘がどこでも買えることに驚いたというエピソードも、そう古くはない。

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